「ファー・アウェイ・アイズ」はまだ聴こえているか?

どんでん返しのある風景~MV篇その1

『21世紀本格ミステリ映像大全』(原書房)において、テレビバラエティの章で素晴らしい仕事を成し遂げた秋好亮平さんが、Twitterに「『どんでん返しのあるMV』についても何かしら書かせてもらえば良かったかもしれない」と投稿していた。

 

21世紀本格ミステリ映像大全

21世紀本格ミステリ映像大全

 

 

ただ、もしそういう話があったのならば、元々音楽雑誌の編集者だったり、音楽ライターをやっていた私が挙手したかったところである。

というわけで(どういうわけだ)、今からいくつか、「どんでん返しのあるMV」を挙げてみよう。

 

まず、肩慣らしとして、MVではなく「どんでん返しのある曲」から。

 

プー・スティックス「On tape」(1988)


この曲の歌詞は次のような内容である。

主人公の「ぼく」は,、ギターポップスやソフト・ロックのレアなレコードを持っていることを自慢する。

たとえば、ポストカードからリリースされたオレンジ・ジュース「Falling And Laughing」のシングル。たとえば、パステルズの1stシングル「Song For Children」。モンキーズ『ヘッド』も持っていると自慢する。

しかし、ひとしきり自慢した後に「ぼく」は言うのだ。「On tape, I got it on tape」、つまり「テープでね。テープで持っているんだけどね」と白状するのだ。

オレンジ・ジュース「Falling And Laughing」なんて、本当にレアもレアで市場にもなかなか出回らない一枚だから、なんとなく気づくのは気づく。手がかりはちゃんとある。「どんでん返し」のお手本のような作品だ。

 

C88 -デラックス・エディション- (C88 DELUXE 3CD BOXSET)

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では、どんでん返しのあるMVを紹介していこう。

 

まずは、これ。

ポール・マッカートニー「My Brave Face」(1989)


冒頭、サラリーマン風な男が登場する。彼はカメラに向かって、ポール・マッカートニーへの愛を告白し、彼のコレクションについては日本一どころか世界一であると宣言する。そして、彼のコレクション自慢が始まる。一方で忍者が潜入し盗みを働くシーンが挟まれる。はたして……というものだ。

 

サラリーマンが忍者を雇うという設定、へんてこな日本人観が面白い。なお、山口雅也が『日本殺人事件』を書くのは五年後のことである(関係ないぞ)。

 

 

ボブ・ディラン「Tight Connection To My Heart (Has Anybody Seen My Love)」(1985)


こちらも日本を舞台にしたPV。
原宿のホコ天や、今はなき六本木WAVEが登場する。終盤で倍賞美津子が大きくフューチャリングされていることでも一部で知られる、ある意味で伝説のPVだ。

このMVでディランは、訪日中に見に覚えのない殺人事件の容疑で捕まった男を演じる。真犯人を探す話のようなのだが、脚本がずさんなため、話はよくわからない。
ただ、京極夏彦の某作品で使われたようなトリックがどうも使われているようだ。一応、どんでん返しの範疇には入るだろう。だが、それはそれとして。ラストで見せるディランの変な踊りが一番どんでん返し……というオチはいらないですね、やっぱり。

なお、重要な役目を果たしている(っぽい)写真週刊誌は、当時の「フォーカス」のデザインを参照したものだろう。

 

エンパイア・バーレスク(紙ジャケット仕様)

エンパイア・バーレスク(紙ジャケット仕様)

 

  

なお、ディランといえば、近年のディランにはハードボイルド映画のタッチをそのまま取り入れた作品がいくつかある。中でもこれは強烈だった。

 

ボブ・ディラン「The Night We Called It A Day」(2015)

ドラマ「プロファイラー/犯罪心理分析官」でマローン捜査官を演じていた*1ロバート・ダヴィも出演したハードボイルドもの。監督はナッシュ・エジャートン。

どんでん返しというには弱いが、愛憎と裏切りが短い時間でわかりやすく描かれた作品だ。

 

シャドウズ・イン・ザ・ナイト

シャドウズ・イン・ザ・ナイト

 

 

 

さて、次はストーリーではなく、仕掛けとしてのどんでん返しに注目してみよう。

ファーサイドDrop」(1995)

監督はスパイク・ジョーンズ。本作はストーリーにどんでん返しがあるわけではない。趣向にどんでん返しがある作品である。

本作をまず再生すると、歌っている男たちが立ち上がり、歩き出す。彼らはとにかく街を歩く。それだけのMVだ。しかし、なにか動きが変だ。その内、視聴者はこのMVの趣向に気づく。どうやって撮影されたかに気づく。そう。逆再生で撮られたものなのだ。最後にガラス板の前に立ったあたりで真相は完全に明かされる。ガラス板を割るという描写が入ることで、この映像が逆再生したものであることがわかるようになっている*2

 

なお、このMVのメイキングも併せて観ると、このMVのすさまじさがわかる。

口の動きと歌詞とのズレを消すため、なんと彼らは撮影時に、わざわざ歌詞を逆さまに、たとえば「Keep」は「Peeki」と、ラップしているのである。そのために言語学者を同行させたというのだから素晴らしい。手の込んだ作品である。

 

Labcabincalifornia

Labcabincalifornia

 

 

チボ・マット「Sugar Water」(1996)

監督は『エターナル・サンシャイン』で知られるミシェル・ゴンドリー

画面は2分割されていて、左右にそれぞれ女性(本田ゆかと羽鳥美保)が立っている。
すぐに右側は逆再生であることがわかる。

左側と右側は行動が逆のパターンでシンクロしている。左側でベッドから起きれば、右側は就寝するといった具合に。やがて、左の女性は外出する。一方で右の女性は帰宅する。

ここから先は見てのお楽しみである。「You Killed Me」と書かれた怪文書も登場するのだから、おだやかではない。奇妙な味の傑作である。

 

ヴィヴァ!ラ・ウーマン

ヴィヴァ!ラ・ウーマン

 

  

さて、ここで一旦小休止して、ミシェル・ゴンドリーが監督したMVで、どんでん返しを用いているわけではないが、ミステリ的な仕掛けがあるものを2本紹介したい。

 

カイリー・ミノーグ「Come Into My World」(2001)

MVは、クリーニング屋から出てきた女性(カイリー・ミノーグ)が抱えていた包みらしきものを落とすところから始まる。彼女は気づかず、そのまま歩いていく。街の風景、そこにいる人々が画面に映る。
すると、女性がまたさっきのクリーニング屋に戻ってくるのだが……。

 

まあ、タイムリープものでも、パラレルワールドものでもなんでもいいのだが、とりあえずこれは1周目冒頭で「なぜ包みを落としたままでいくの? この後、この包みはどうなるの?」と視聴者にイメージづけることができなければ、2周目頭の驚きと納得は訪れないと思われるのだ。伏線の妙というやつである。

 

フィーヴァー

フィーヴァー

 

  

ケミカル・ブラザーズ「Star Guitar」(2002)

 

カイリー・ミノーグの曲同様、これもまた有名なMVなので、ご覧になったことがある方も多いかと思われるが。
このMVはある“トリック”ひとつだけで引っ張ったものである。そして、その“トリック”は作品の冒頭から最後まで隙間なくみっちり仕掛けられている。観る者はMVのどこかでその企みに気づくはずである。わかりやすい箇所は何箇所もあるからだ。そして、気付いてからは楽しみ方が、「どう表現するのか」を楽しむ方向に変化するはずだ。
近年のミステリでいえば、深水黎一郎の『虚像のアラベスク』みたいな作品といえば、ミステリ・ファンにはわかりやすいだろうか。最後まで騙し通すことを念頭に置いて受け手にトリックを仕掛けるのではなく、受け手にどこかのタイミングで気づいてもらって作者の技巧を楽しんでもらうためにトリックを仕掛け続ける。そういう作品なのである。

ということで、ケミカル・ブラザーズ「Star Guitar」のMVを気に入った方には深水黎一郎の『虚像のアラベスク』も併せてお薦めしたい。

 

カム・ウィズ・アス

カム・ウィズ・アス

 

 

虚像のアラベスク

虚像のアラベスク

 

 

 

では、本線に戻ろう。
次は、逆再生もので、ストーリーにもきっちりどんでん返しがあるものを一本紹介しよう。

 

アルト・ジェイ「Breezeblocks」(2012)

男が頭を抱えている。浴槽が映る。そこには、女性の死体。なるほど、これは男が女性を殺したことを嘆いているのだなとわかる。次に男が女性を殺す様が描かれる。逆再生で何が起こったのかが説明される。しかし、次第にこの作品にはもう1人、女性が関わっていることがわかる。そして――逆再生していくことで、物語の構図は反転するのだ。これぞ正しく、どんでん返しであろう。

 

Awesome Wave

Awesome Wave

 

 

 

最後に紹介するのはこれだ。 

コーネリアス「Tone Twilight Zone」(2001)

指がまず映る。指を人間に見立てて、部屋の中を歩かせているのだろうと気づく。指の視点による冒険譚が始まる。酒に酔ったり、飛び跳ねたり、机の上を滑ったり。表情も豊か(なように見えてくる)。指くんはなだらかな丘陵を登っていく。そして……。

視点主人公の交代劇という意味でのどんでん返しだと思うが、いかがだろうか。

 

point

point

 

  

とりあえず、今ぱっと思い浮かんだものでざっと簡単に書いてみた。また、いつかやるかもしれない。

*1:『007 消されたライセンス』での麻薬王役も印象深い

*2:砕かれてできたガラス板の破片が元の状態に戻ることはないので

『リメンバー・ミー』はミステリ好きにこそ観てほしい

つい最近出た千街晶之編『21世紀本格ミステリ映像大全』(原書房)は刺激的な本であり、その労作ぶりには頭が下がるばかりなのだが*1、少し残念なところもあった。

 

21世紀本格ミステリ映像大全

21世紀本格ミステリ映像大全

 

 

何が残念なのか。それは、ディズニーをはじめとして海外のアニメ作品がまったく取り上げられていないことだ。「アニメ」の項目はあるのだが、そこにあったのは深夜アニメを中心とした日本のアニメのみ。偏りがあるというか*2。もっと広い視野で捉えてほしかった。

 

ディズニー作品にあるミステリ的な仕掛け

さて、ディズニーにはミステリの語り口を取り入れた作品が多々ある。古くは『ロジャー・ラビット』。双葉十三郎氏は同作をハードボイルドものとして評価し、瀬戸川猛資氏は同作に仕掛けられた“一人二役”トリックを絶賛していた*3

 

 

近年のディズニー/ピクサー作品では、その傾向はますます強まっており、ミステリ的なツイストが効いている作品が多く作られている。その辺については、『奇想天外 21世紀版』の〈ミステリ映画祭〉でも書いたが、〈意外な真犯人〉や〈ミスディレクション〉といった意匠が多用されているのだ。

 

奇想天外 21世紀版 アンソロジー

奇想天外 21世紀版 アンソロジー

 

 

わかりやすい例だと、『アナと雪の女王』。同作におけるヴィラン(悪役)に驚いた人は少なくないだろう。『ベイマックス』のミスディレクションにまんまとハマってしまった人も少なくないだろう。あなたも、復讐に燃える仮面の男の正体を見誤ったはずだ。

また、ストーリーそのものはミステリではないが、昨年公開された『カーズ・クロスロード』も〈意外な真犯人〉ものの変奏といえるだろう。
……といった具合に、ディズニーには、ミステリ好きならば絶対に楽しめる作品が多々ある。

 

 

 

 

「ディズニー作品は筋立てが単純だ」と言われることが多々ある。「日本のアニメは複雑なテーマを描くが、ディズニーはそうではない」みたいな文脈で主に言われるようだ。

確かに、ディズニー/ピクサー作品は、テーマがわかりやすいかもしれない。しかし、テーマは単純かもしれないが、プロットは複雑なのだ。ミスリードもあるし、伏線もきちんと張られている。キャラクターの配置が最初と最後とでがらっと変わるなんてこともざらにある。

ウェルメイドな話で、ドタバタもあって、意外性のある話――ミステリ好きならば、観たくなるに違いないと思うが、どうだろう。

 

リメンバー・ミー』にあるミステリ的な仕掛け

繰り返しになるが、ミステリ好きならば、ディズニー作品を観ておいて損はないと思う。それは、作品現在上映中の『リメンバー・ミー』にしてもそう。本作にもミステリ的な趣向が取り入れられているのだ。

 

リメンバー・ミー オリジナル・サウンドトラック

リメンバー・ミー オリジナル・サウンドトラック

 

 

リメンバー・ミー』のあらすじはこうだ。

主人公は、ミュージシャンを夢見る少年・ミゲル。しかし、彼の家には、厳格な掟があり、ギターを弾くことも音楽を聴くことも禁じられていた。

ある日のこと、ミゲルは一枚の写真から、自分の先祖が伝説のミュージシャンではないかと推理する。家族と衝突し家を飛び出したミゲルは、伝説のミュージシャンの墓に侵入し、彼が愛用していたギターを手にとる。ミゲルがギターをかき鳴らした瞬間、彼の周囲の光景が一変する。なんと、ミゲルは呪いによって、死者の国に迷い込んでしまったのだった! ミゲルは元の世界に戻るため、死者の国のどこかにいる伝説のミュージシャンの元へと向かうのであった――。

 



作品のテーマが〈家族との絆〉や〈夢との向き合い〉であるため、〈ディズニー=単純な物語〉という固定観念があるミステリ好きは興味を持てないかもしれないが、待ってほしい。本作は紛れもなく、ミステリなのだから。

リメンバー・ミー』の主筋は、死者の国に迷い込んでしまった少年が、ご先祖様たちが抱えている秘密を探るというものだ。

そういった物語構成もミステリ的ではあるのだが、本作には、死者の国で死者のフリをする羽目になったことによるサスペンス的な興味もあるし、実は隠れたフーダニットもある。特に、この隠れたフーダニットが絶妙で、発覚するタイミングもドンピシャリ。と同時に、巧妙に隠されていた事件も浮かび上がるなど、そこからの連打が心地よい。
そこまではっきりと書かれいるわけではないが、死者だからこその思考が物語に影響するなど、山口雅也の『生ける屍の死』にも通じるものがある……というのは言い過ぎだろうか。

 

さいごに

リメンバー・ミー』には多種多様な華やかさがある。

たとえば、メキシコ風な死者の国の描かれ方。その色彩感覚に魅了されない者はいないだろう。たとえば、劇中で流れる音楽。メキシコ音楽の陽気さにうっとりとさせられることは間違いない。

 吹き替えを担当する声優の演技もそう。藤木直人の名演には心打たれるし、多田野陽平さんの演技にはほっこりさせられる(この人の演じる、少しヌケたおじさん役は味がある)。

そして、物語も。ドタバタがあって、ほろりとしたり、ほっこりしたり。ミステリとしても面白くて。とにかく、お薦めだ。

*1:秋好亮平さんが一人で担当した「テレビバラエティ」の項目だけでも買い。バラエティ番組をミステリとして読み解くという試みがとにかく面白いのだ

*2:たとえば、原作にあった手がかりの描写や推理パートを端折るなど、ミステリ的要素を意識的に省いていたアニメ版「ダンガンロンパ」が取り上げられているのも「偏り」と言えるだろう

*3:『夢想の研究―活字と映像の想像力』(早川書房)に収録されている「からくり兎」は「ロジャー・ラビット」について論じたものだ

【告知】「ジャーロ」2018年春号から企画・編集を担当した連載がスタートします。

3/23に発売されるミステリ文芸誌「ジャーロ」No.63 2018年SPRING号(光文社)から、私が企画・編集を担当した「バスルームで小説を書く100の方法」の連載が始まります。

 

ジャーロ No. 63

ジャーロ No. 63

 

 

ミステリ作家がどんな環境で小説を書いているのか。どんな道具を使って物語を作っているのか。――「バスルームで小説を書く100の方法」は、一人の作家を文化的な背景からではなく、使ってきた機材から捉えるドキュメンタリー企画です。
インタビューを通じて、作家が使った機材を明らかにするとともに、小説の書き方を探っていきます。

 

今回お話をお伺いしたのは、今年の夏に『憑きもどり』(さんが文庫*1)が映画化される明利英司さん。なんと、明利さんは小説をガラケーだけで書いてきたそうです!

 

憑きもどり (さんが文庫)

憑きもどり (さんが文庫)

 

 

旧校舎は茜色の迷宮 (講談社ノベルス)

旧校舎は茜色の迷宮 (講談社ノベルス)

 

 

幽歴探偵アカイバラ (講談社ノベルス)

幽歴探偵アカイバラ (講談社ノベルス)

 

 

 ガラケーで小説を書くって、一体どうやって書いているの?……ということで、今回は明利さんが使用してきた歴代の機種の写真とともにお送りします。

 

なお、この企画は元々は、天祢涼さんが私に提案していたもので、「遊井かなめの小勉」というタイトルでやるよう言われていたのですが、そのタイトルだとなんだかアレなので、結果このようなタイトルに落ち着きました。

 

ということで、ミステリ好きだけでなく、小説を書いてみたいという方も楽しめる内容になっているかと思いますので、ご興味のある方はぜひ! よろしくお願いいたします。

*1:なお、同書については、こちらをご参照くださいませ

【告知】「ジャーロ」2017年冬号に企画・編集を担当した記事が掲載されました

12/22に発売されるミステリ文芸誌「ジャーロ」No.62 2017年WINTER号(光文社)に、企画・編集を担当した特集「ミステリー誌のビッグウェーブがあった時代」が掲載されます。

 

ジャーロ No. 62

ジャーロ No. 62

 

 

ジャーロ」の前身はご存じ、「EQ」。1999年に休刊した「EQ」の後継誌として、2000年に「ジャーロ」は創刊されましたが、実は来年で「EQ」創刊から40周年の節目を迎えます。*1
そこで、「ジャーロ」の40周年を前祝いというわけではないですが、10月に奇跡の“復活”を遂げたエンタメ文芸誌「奇想天外」とコラボする形で、ミステリー誌が多く刊行された70年代を振り返ろうというのが今回の企画です。

 

最初にお送りするのは、山口雅也さんへのスペシャル・インタビュー「ぼくたちには雑誌が必要なんだ」。インタビュアーは遊井です。

山口さんが60~70年代の雑誌文化を振り返るという内容ですが、今後の雑誌のあり方についても語っていただいております。「ヒッチコックマガジン」創刊号や、「マンハント」の後継誌「ハード・ボイルド・ミステリィ・マガジン」第1号などの表紙写真もふんだんに掲載。*2エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン」以後の主なミステリー雑誌と、同時代の雑誌を俯瞰するような図表も作成しましたので、ミステリー雑誌の歴史について立体的に知ることができるのでは……と思います。

 

次にお送りするのは、「奇想天外」の編集主幹だった曽根忠穂さん、そして「EQ」~「ジャーロ」の編集長を務めた北村一男さんによる証言。

曽根さんはインタビュー形式で(インタビュアーは遊井と山口雅也)、北村さんはエッセイ形式で、“あの頃”、そして当時執筆していた作家たちを振り返ります。

 

その次にお送りするのは、「『EQ』と『奇想天外』がもし今も続いていたら、こんなコラムが載っていたのではないか」という趣旨で集めたコラムを4本。

「EQ」側は松坂健さんと千澤のり子さん。「奇想天外」側は鏡明さんと天祢涼さんに依頼しました。

松坂健さんは「ミステリーナイトも新本格も30年」というタイトルで、イベントの「ミステリーナイト」について。

千澤のり子さんは「本格ミステリ好きに紹介したいボードゲーム」と題して、ボードゲームについて。

鏡明さんは名コラム再び!「SF・オン・ザ・ロック・リターンズ」。2017年に鏡さんが触れた音楽とSFについて。

天祢涼さんは「奇想天外ゲーム十選」と題して、ファミコンスーパーファミコンのユニークなゲームについて。

 

そして最後は、「ジャーロ」現編集長の堀内さんと、『奇想天外 アンソロジー』の編集を担当した私による、ミステリー誌の「今」と「これから」についてのエッセイ。

 

……という感じで、かなりガッツリ詰め込んだ読みものになっております。

曽根さん、北村さん、堀内さん、山口さんの雑誌という形態への愛が詰まったものになっていると思いますので、ミステリ・ファンだけでなく雑誌好きに手に取ってもらいたいなと思う次第。よろしくお願いいたします!

 

*1:Ellery Queen's Mystery Magazine」との特約を早川の「ミステリマガジン」から引き継ぐ形で創刊された。

*2:山口さんが学生時代に作成した「エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン」の総目録「別冊オベリスト」というレアなものも!

2017年度アニメのベスト5を選んでみる

とりあえず年末ということで、2017年度アニメのベスト5を選んでみる。

 

なお、昨年度の私的ベスト5はこんな感じだ。

ue-kaname.hateblo.jp

 

ああ、そうそう。

一応、私の生涯のベスト20をまず挙げておく。そうしておけば、大体のところはお察していただけるのではないかなと。なお、カッコの中の数字は日本における公開年である。

 

1位『トイ・ストーリー3』(2010)
2位『美女と野獣』 (1992)
3位「カウボーイ・ビバップ」(1998~99)
4位『ウォーリー』 (2008)
5位『トイ・ストーリー』 (1996)
6位『カーズ・クロスロード』(2017)
7位「夢がかなう場所 -Where Dreams Come True」(CM/2012)
8位『塔の上のラプンツェル』 (2011)
9位『ファインディング・ドリー』(2016)
10位『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009)
11位『ノートルダムの鐘』(1996)
12位『モアナと伝説の海』(2017)
13位『アナと雪の女王』 (2014)
14位「フィニアスとファーブ」(2008~2015)
15位『プリンセスと魔法のキス』(2010)
16位『ファインディング・ニモ』(2003)
17位『カーズ』 (2006)
18位『ピーターパン』 (1953)
19位『トイ・ストーリー2』(2000)
20位「AKB0048」 (2012~13)

 

今年の10本と簡単な解説

 

1位『カーズ・クロスロード』
2位 ディズニー・ギフト・オブ・クリスマス
3位『モアナと伝説の海』
4位「ブレードランナー ブラックアウト 2022」
5位「マイロ・マーフィーの法則
次点「ラプンツェル あたらしい冒険」

 

簡単に解説を。

 

1位『カーズ・クロスロード』はクルーズ・ラミレスに感情移入しちゃったこともあり、人生の1本となったわけだが。

とにかく、映画『カーズ・クロスロード』はミステリ・ファンならば唸らされる作品だと思う。「ベテラン・レーサーが若き王者にいかにして勝つか」というところで話を進めておいて、物語に大きくツイストが加わる。伏線もちゃんと張られているし、どんでん返しに唐突さはない。物語もちゃんと解決している。ミステリ・ファンにこそ観てもらいたい作品だ。

 


カーズ/クロスロード(吹替版)- Trailer

 

 

2位のディズニー・ギフト・オブ・クリスマスは、シンデレラ城に投影されるプロジェクション・マッピング・アニメ。「Have Yourself A Merry Little Christmas」などのクリスマス・ソングがかかる中、ディズニーのキャラクターたちが空間に躍動する。空間、音、光をうまく使った体験共有型アニメの最高峰。これは毎年言っているが、これこそがアニメの最先端だと思う。

 


【公式】「ディズニー・ギフト・オブ・クリスマス」ダイジェスト|東京ディズニーランド

 

ディズニー・リゾート関係だと、やはりシンデレラ城を舞台としたキャッスル・プロジェクション「フローズン・フォーエバー」も素晴らしかった。また、ディズニー・シーの新アトラクション「ニモ&フレンズ シーライダー」は、『ニモ』の世界に入っていく感じにシビレた。

 


NEWアトラクション「ニモ&フレンズ・シーライダー」TVCM

 

 

3位『モアナと伝説の海』は、圧倒的な存在と渡り合う(≠戦う)人間のお話。そして、最近のディズニーが得意とする「意外な真犯人」ものの変奏でもある。

 

 

まず、映像表現がとにかく素晴しい。水の表現だけでなく、髪の表現にとにかく驚かされる。ウェービーな髪が風になびく、水の中で広がるなど、ここまでアニメでやれるのかと。アクションの多彩さ、カメラワークもケレン味たっぷり。マグマの悪魔である巨大なテ・カァの圧倒的な存在感や動きもマジで恐怖、いや畏怖の念を抱いたほど。

 

ディズニー映画といえば音楽も魅力的だが、本作もそう。
今はじめて外に出ようとする際に歌われる「How Far I'll Go」の開放感もぐっとくるが、挫折の中で自分を規定し直し前を向く「I Am Moana」(「How Far I'll Go」のリプライズにあたる曲)にある祝福にはさらにぐっときた。
ミュージカル映画としての完成度、曲とストーリーの連携という点では『モアナ』は『アナ雪』を超えてると思う。話を大きく動かす転機となる際にかかる二つの曲。シチュエーションとしては表裏の関係。そして曲自体も表裏の関係。「I Am Moana」で、あるメロディが流れ出した途端、変な声を出して泣いてしまった。

 


Various Artists - How Far I'll Go - Heard Around the World (24 Languages) (From "Moana")

 


I Am Moana (Song of the Ancestors) (From "Moana"/Audio Only)

 

ストーリーとその語り口について言えば、テーマの押し付けがましさはいっさいなし。さりげない。あるキャラクターの退場を描く際も、さりげなく。直接的に、そのシーンを描かない。
ミュージカル映画として、アクション映画として極上でありながら、さりげなくメッセージを発信している。理想的なエンタメだと思う。

 

なお、近年のディズニーは、世間一般的に持たれているであろう〈ディズニーのプリンセスもの〉イメージをひっくり返すというか、揺さぶる作品を発表し続けているが、*1、本作は歪んで伝わっている〈ディズニーのプリンセスもの〉のイメージをギャグにすらしている。ディズニー好きとしては、そこも痛快。

 

最後に、日本語版吹き替えがとにかく素晴らしかった。タマトアにROLLY、タラに夏木マリを配役できた時点で勝ちだと思う。

 

 

4位「ブレードランナー ブラックアウト 2022」は映画『ブレードランナー2049』の前日譚となるショートムービー。監督は渡辺信一郎。現時点の日本のアニメーションの最前線。

 


【渡辺信一郎監督による前奏アニメ解禁!】「ブレードランナー ブラックアウト 2022」

 

 

5位「マイロ・マーフィーの法則は「フィニアスとファーブ」を手がけたダン・ポベンマイヤーとジェフ・“スワンピー”・マーシュによる新シリーズ。日常で普通に生活しているだけで必ず悪いことが起こってしまう少年を主人公とするドタバタ・コメディ。*2
大惨事の最中にあるにも関わらず、そんなに慌てることなくポジティヴに状況を受け入れて、こんなこともあるさとばかりに楽しんでしまうマイロの冒険譚といった方がよいだろう。多数のとぼけたキャラクターたちも魅力的。とにかくチャーミングな作品である。

マイロとは正反対に悲観的なキャラクターもいれば、予測していなかったことが起こるのを嫌う完璧主義者もいる。トラブルを呼び込んでしまうマイロのことを危険だと見做す青年もいる。彼といることを面白がっている少女もいる。楽観的なトラブル体質者を中心とした人間模様にもはっとさせられる。

 

平穏な日常がいきなり大きなトラブルに変異するというストーリーゆえ、そんなにパターンを作れるのか放映前は不安だったが、その不安は杞憂に終わりそう。また、「フィニファ」同様、別々の無関係な話が同一の時間軸で微妙に影響し合いながらそれぞれの結末に着地していく様に気持ちよさを覚えた。

 

次点の「ラプンツェル あたらしい冒険」ラプンツェルが相変わらず強くて最高。

 


「ラプンツェル あたらしい冒険」予告編

 

 

来年の予告

さて。もう来年のことを書いてしまうが、おそらく来年は3月に公開予定の『リメンバー・ミー』と8月に公開予定の『インクレディブル・ファミリー』(『Mr.インクレディブル』の続編)の2作が上位に来るだろう。ともに予告編はこんな感じだ。

 


「リメンバー・ミー」本予告

 


「インクレディブル・ファミリー」特報

 

特に、『インクレディブル・ファミリー』は、前作が捻った展開でサスペンスとしても面白かっただけに、ミステリ・ファンとしては期待大! めっちゃ楽しみっす!

 

 

*1:プリンセスと魔法のキス』『アナと雪の王女』など

*2:友人のミュージシャンが“コメディ・タッチの「Another」”と評していて笑った記憶がある