モーズ・アリソン『Way Of The World』

モーズ・アリソンの新作が届いた。

 

Way of the World (Dig)

Way of the World (Dig)

 

 

1997年の『Gimcracks and Gewgaws』以来となるスタジオ・アルバム。『The Way Of The World』。プロデューサーはジョー・ヘンリーだ。

モーズ・アリソンというジャズ・ピアニストは、どちらかと言えばジャズ・ファンよりもロック・ファンに愛されてきたピアニストだ。有名なところだとザ・フーとかエルヴィス・コステロもカヴァーしていたし、そのヒップなブルース感覚ゆえにミュージシャンからも高い支持を得てきた。*1

また、モーズ・アリソンという人は、その渋いピアノもそうだけど、そのシニカルな視線によるソング・ライティングや、鼻にかかったようなソフトな歌声とかも素晴らしく。ジャズ・ピアニストと言うよりはシンガー・ソングライターとしての評価を得てきたミュージシャンでもある。

 

今回の新作はジョー・ヘンリーがプロデュースを担当している。ジョー・ヘンリーというのは、最近のアメリカ音楽のキー・パーソンとも言えるプロデューサーで、昨年のリリースだとランブリン・ジャック・エリオットの『A Stranger Here』や、アラン・トゥーサンの『The Bright Mississippi』などで知られる。ベテランをプロデュースする際の仕事ぶりが面白く、次はアーロン・ネヴィルとハリー・ベラフォンテの新作のプロデュースもするそうだ。アメリカン・ルーツ・ミュージックへの深い愛情と知識を元に、アコースティックとデジタルな部分を織り交ぜて現代のブルースを作るという手法。 そこら辺は彼自身のアルバム、07年にリリースされた『Civilians』とか、昨年の『Blood From Tears』とかにも顕著なのだが、そういったジョー・ヘンリーの見事な手腕というのは今回も発揮されている。

しかし、何より、今回のアルバムで特筆すべきはジョー・ヘンリーのサポートを受けてのモーズ・アリソンの好調さである。

1曲目の「My Brain」なんてブルースの古典そのまんま、わかりやすく言えば「My Babe」なのだが、すごくヒップにブルースを歌っていく。鼻歌のように飄々と歌い、昔と変わらずスゥインギーなピアノを聞かせるのだ。歌詞もまだすべてを味わえているわけだはないが、 モーズ・アリソン自身の味というものはちゃんと健在だ。

 

歌詞も面白い。たとえば、「My Brain」は

My brain is always ticking, my brain
My brain is always ticking, my brain
My brain is always ticking
Long as I'm alive and kicking
My brain, cool little cluster, that's my brain

 

で、まず1番が始まる。形式も正しくブルース。それが最後にこうなるのである。

My brain is losing power, my brain
My brain is losing power, my brain
My brain is losing power
1,200 neurons every hour
My brain, cool little cluster, that's my brain

 

僕の拙いリスニング能力で聴きとった歌詞なので、間違いはあるかもしれないが、こういう視点。脳はいろんなものを感知して楽しませてくれるんだけど、脳は同時に力を失っていると。これを83歳になった爺さんが飄々と歌うのだ。哲学的なのだけど、「brain」という凡そブルースなんかでは出てこない単語が出てくる違和感ゆえの面白さ。こういったブルース感とブルース観が面白い。

生きていることに驚いたなんて感想ではまず済まない傑作だ。

*1:たとえばヴァン・モリソンなどは、ベン・シドランとジョージー・フェイムと一緒に、モーズ・アリソンの作品をカヴァーしたアルバム『Tell Me Something: The Songs of Mose Allison』を96年に発表していたほど。