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Features(May, 2013)

 以前お仕事で書いた音楽関係の原稿をまとめてみます。掲載誌の「ボカマガ」自体はもう終わっていますし(今後書籍化されることもないでしょうし)、アーカイヴ化しておこうという試みです。

 

ノラフィ「ドキドキして」

 イントロからして90年代のギター・ポップス、もっと言えばカーディガンズなどのスウェディッシュ・ポップスを思い出す方は少なくないものと思われるが。そのポップな感覚とは裏腹に、文節の区切り方が独特であり奇妙な味となっている。テンポが一旦変わってまた元のテンポに戻る際のコーラスのヴォイシング(和声)、ギター・ソロの組み立て方、最後の転調など、黄金時代のアメリカン・ポップス的な文脈を踏まえた音作りにも拍手を送らざるをえない。

 

ときわかねなり「横浜スリーピングビューティ」

 左右への音の振り方、オルガンのトーン・バーの設定など、60年代後半の英国ポップスの匂いが濃密に漂う怪作。ただ、それ以上に言及すべきはミクによる「A New Stereophonic Sound Spectacular」の引用からも明らかなように、ピチカート・ファイヴを意識した曲調で。ここまで徹底していれば、たいしたもの。最初のホーンからしてそうだが、ピチカートが引用した数々のフレーズを再動員し構築した音作りには上質な職人気質を感じさせられる。考えてみれば、王子様も渋谷系頻出ワード。

 

ManP「aimai suno」

 ソウルな味わいもそうだが、クラウドベリー・ジャムやエッグストーンなどのスウェディッシュ・ポップスを想起させられる曲調。ギターのカッティングも勿論だが、間奏のエレピや終盤になってようやく登場するオルガンなど鍵盤の使い方もオシャレだ。ただ、この曲一番の聴きどころは、IAの歌。ハスキーな声質があってこその曲調ではあるが、サビでの高音のIAとの寄り添うようなハーモニーには、昨日今日のものではない月日の積み重ねを感じてしまう不思議。

 

 ds_8「雪歌ユフと5つの宝石」

 ds_8さん本人は「カントリー気取り」と謙遜しているが、ギターを聴くだけでブルーグラスやカントリーをよく研究しているのがわかる。ソロの組み立て方には、それらの音楽をルーツとするブライアン・セッツァー的なものも感じさせられる。ベースのビート感に関しても特筆モノで、この感触はエリアコード615などの60年代後半~70年代前半のカントリー・ロック勢が生み出した究極のグルーヴを踏襲したもの。雪にまつわる言葉が隠喩として織り込まれた歌詞も秀逸。

 

LIM「ヒツジのワルツ」

 アコーディオンの使い方。GUMIとミクによる掛け合い。けだるさのある浮遊感。そこから思い出すのはフリッパーズ・ギターの「スライド」。「ヒツジのワルツ」は10年代版の「スライド」だといえる。ギターのエコーの掛け方が90年代の英国ロック勢で聴かれたものに近いせいもあって、余計にそんなことを考えてしまうが。GUMIとミクのスキャット、静かになった際の二人の掛け合いなど、しんしんと音が遠くで聞こえる中続く2人の歌による会話がとにかく美しい。

 

カミウラ(仮「ウィンター・ホリデイ」

 キャロル・キングなどの70年代前半のシンガー・ソングライター的な内省感が強く感じられる曲。ただ、よく注意して聞くと、「気づかない」のあたりのメロディや、ピアノの高音部に不穏なものがあるところ、またある一箇所でのコーラスの組み立て方などに『ペット・サウンズ』辺りのビーチ・ボーイズらしさもあり、油断のならない曲ではある。周囲がイノセンスを喪失する中でまだ逗まり続ける雪風ユフ、とでも言うべき風景がユフの歌声から立ち現れる。

 

佐々木KすけP「石油」

 虚構なのかリアルなのか、そこは定かではないが。労働者の悲哀のようなものが歌われているという意味でも正しくブルース。甲高くもドスの効いたミクの声もまるでジュニア・ウェルズやジミー・リードのよう。特に最初の歌い出し「アァー」の部分などは黒人ブルースマンの文法に完全に則った歌い出しであり、わくわくさせられる。異様なリヴァーヴや録音の悪さなど、音像そのものも50年代のコブラを意識したのではないかと思わされるが、はたして。

 

趣味工房にんじんわいん ARA「Dot Princess」

 チップチューンとは、1980年代の家庭用ゲームで用いられたような音色を用いた音楽であるが。そのチップチューンで、10年代を席巻する某アイドル育成ゲームで歌われるような曲をやったというのが当曲のコンセプト。確かにそれらしい曲調であり、「パパパ」コーラスや「イエーイ」という部分にもそれは強く感じられる。ただ、この曲は歌詞が聴きもので。80年代に小学生だった人が今大人になって子供たちに語りかけているという内容には涙せずにはいられない。

 

 

(Unedited stuff for VOCAMAGA / May. 2013)

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