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Features(September, 2013)

以前お仕事で書いた音楽関係の原稿をまとめてみます。掲載誌の「ボカマガ」自体はもう終わっていますし(今後書籍化されることもないでしょうし)、アーカイヴ化しておこうという試みです。

 

ノラフィ「クッキー・デイ」(原曲:少年ナイフ

 1998年にリリースされた少年ナイフのアルバム『HAPPY HOUR』収録の「クッキー・デイ」のかわいらしいカヴァー。アオノアオさんによるイラストは同盤のジャケット写真のパロディになっている。原曲はスカ風味なロックンロールだったが、こちらはドラジビュスなどを想起させられるゴキゲンなトイポップ。ノラフィさん特有の、かわいらしいミクの歌声ももちろん健在。また、少年ナイフがそうであったように英詩版もあって、そちらも必聴だ。

 


かなしいぱんつ「悲しみなんて宵闇に溶かしてしまいなさい」

 1980年代後半~90年代前半に聴かれたシューゲイザー寄りのギター・ポップス。轟音の奥にある美メロが圧巻。ひんやりとした手触りも含めて、あの頃のギター・ポップスそのもの。ミクがもうミクではなく、アノラックのパーカーを着た女の子にしか思えないほど。なお、かなしいぱんつさんが春のM3で発表した『echinodermata.e.p.』はアズテック・カメラ『High Land, Hard Rain』、オレンジ・ジュース『You Can't Hide Your Love Forever』と並ぶ名盤だ。

 


見切り発車P「ガラクタマーチングバンド」

 コロコロと転がるピアノ、跳ねるリズム、そしてミクのいなたい歌声。哀愁が漂うメロディと、お祭り気分の漂うバック・トラック。ドクター・ジョンなどを思い出さずにはいられない、まさにニューオーリーンズR&Bな佳曲だ。しかし、この曲の一番の魅力は歌詞と歌声の対応にある。楽しげなマーチの様子が歌われる中で、ふと現実に気づいてしまったミク。その刹那、声を抑えて歌うミクの歌声。悲しみを笑おうという彼女の歌声に胸が締め付けられる。

 

kabigon「7月20日のカレンダー」

イントロでのギターのフレーズや「Da Doo Ron Ron」直系のピアノの三連符など全体の構成では松田聖子冬の妖精」、間奏で大滝詠一君は天然色」を下敷きにして作られたポップス。バック・トラックの方向性は1980年代の第2期ナイアガラだが、それは歌詞にしてもそうで。たとえば「手をつなぐ二人 君の手が少し 早く離れたね」などは、大滝詠一『EACH TIME』での松本 隆の歌詞に通じるものが。歌詞で大滝へのアプローチを試みた点が評価できる。

 

MSSサウンドシステム「うさぎの見る夢」

 MSSサウンドシステムさんの作り出すヒップホップは、音の選び方、そして音の置き方に圧倒的なピュアネスがある。ア・トライブ・コールド・クエストにも通じるようなクールな衝動も彼の魅力だが、サティの大ネタをサンプリングしたこの曲では、これまたMSSさんの魅力であるミクの歌に耳を奪われる。無垢な魂を昇華するかのようにひとつひとつの言葉を丁寧に歌にするミク。イノセンスの喪失に抗おうとする切実な訴えが突き刺さってくる美しい曲だ。

 

かるがも観光「Song for the Lord」

 「UTAU神7」によるゴスペル。オルガンもひたすらグルーヴィーで、気づくとハンド・クラッピンしてしまうほど。だが、特筆すべきはふくよかで分厚いコーラスとその響き。歌そのものがとにかく圧巻だ。歌自体は「We Praise Your Name, Lord(訳:主よ、あなたの御名を讃えます)」で始まるが、この始まりひとつで、この曲がゴスペルの基本的文法を抑えていることが判る。詩篇145篇やハレルヤ詩篇にも通じる歌詞のゴスペル具合にも注目だ。

 

ttarrossa「白い珊瑚礁

 レゲエ。そして、R&B。隙間の多いラフな音像が耳に心地よい作品。ベースの動きやドラムの音の抜け、ホーンの使い方などからは、メンフィスの音、つまりSTAXの香りが漂ってくる。いなたいギター・ソロも実にメンフィス風味。ルカのぶっきらぼうな歌で語られる内容は、環境問題に切り込んだものかと思えば、周囲の変化に対して不安を抱く男の心象風景を描いた歌のようにも聴こえ、そのぶっきらぼうな歌ゆえにこちらに想像する余地を与えてくれる。

 

 

(Unedited stuff for VOCAMAGA / September. 2013)