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Features(November, 2013)

以前お仕事で書いた音楽関係の原稿をまとめてみます。掲載誌の「ボカマガ」自体はもう終わっていますし(今後書籍化されることもないでしょうし)、アーカイヴ化しておこうという試みです。

 

佐々木Kすけ「End Of Summertime Blues」

 鬱屈した日常への思いを歌に仮託したのがブルースだが、鬱屈した日常を忘れようと非日常を壮大に夢想した結果がテクノだった。ブルースとテクノの衝突を試みる佐々木Kすけさんだが、この曲ではさらにそれを推し進めた形となった。海の広さ、その対比としての人間の小ささ。Lo-Fiな音像の向こうで歌われるテーマは実に壮大である。ゆえにこの曲はブルースでありテクノである。ブルースもテクノもスタイルではない。演者の精神性そのものなのだ。

 

あつぞうくん「真夜中のベッドルーム」

 ATZ Recordsの主宰・あつぞうくんの新曲はチップチューンを使ったポップス。この曲におけるチップチューンの使い方はホーンのそれに近く、これがホーンであれば90年代の渋谷系になるが、そこでチップチューンとなるのが2010年代的だ。テーマ的なもので対応するのはピチカート・ファイヴ「サンキュー」か。「サンキュー」では「君」、この曲ではミク。「彼女がいたからこそ独りではなかった。だからサンキュー」そんな想いが優しく伝わってくる名曲だ。

 

yukky「恋する縞パン

 ボカロ・ファンが集まるパン屋“ボカロパン屋さん”こと尾久三河屋製パンさん。そんな同店を舞台にした曲がこの曲だ。シュープリームス「恋はあせらず」のビート、つまりモータウン・ビートに乗せて歌われるのは夢見がちな女の子のかわいらしい想いだが、よくよく聴くとパン、しかも同店特製の縞パンが焼きあがるまでが歌われており、にやっとさせられる。なお、PV撮影も尾久三河屋製パンさんで行われており、そのかわいらしいPVも見ものだ。

 


空海月「僕だけのRock&Roll」

 ストレイ・キャッツの「ロックタウンは恋の街」を想起させられるような、ZOLAのYUUがヴォーカルを務めるノリノリのロカビリー。「ロック ロック ロックンロール」というコーラスのフレーズもロカビリーのお約束だ。ピアノが跳ねまくる一方で、ロカビリーの華ともいうべきギターは最後までリードをとらないが、それもそのはず。この曲はロックスターに憧れる少年が「いつかギターをきっと手に入れてやる」という曲なのだから。その構成もお見事!

 

きむらん「永遠も半ばを過ぎて」

 ダニエル・ラノワがプロデュースしていた頃のボブ・ディランにも通じるスピリチュアルな音像が印象的な曲。かつて最晩年のジョニー・キャッシュナイン・インチ・ネイルズ「Hurt」をカヴァーして、人生に対する悔恨の念を歌ったが。永遠を生き続ける少女・ミクが「君」との思い出が生み出す終わらない痛みを歌うこの曲にも、構図としては真逆ではあるが同じような壮絶さを感じさせられた。「痛み」との真摯な向き合い。この2曲はそれゆえ美しい。

 

room「stray girl」

 1990年代後半。歌ものにドラムンベースを取り入れる動きが進む中、もっともスタイリッシュにクールに取り入れたのがホスピタル・レコードのロンドン・エレクトリシティであった。roomさんの新曲は彼らの名曲「シスター・ストーキング」にも通じるロックでクールなドラムンベースとなっており、90年代のクラブ・ミュージックに通じるroomさんの面目躍如といったところ。なお、PVは9月26日に発表されたキャラミんstudioを使って制作されている。

 

hptaicho「イエローサブマリン音頭」

 1982年に大滝詠一のプロデュース、松本 隆の日本語詞により発表された金沢明子の「イエローサブマリン音頭」。同曲はビートルズの「イエローサブマリン」を、クレージーキャッツの編曲で知られる萩原哲章が音頭化したスチャラカ極まりない怪作なのだが。今回のミクによるカヴァーは、同曲の歌詞を本家の英語詞に戻して、ミクV3 ENGLISHで「英語カヴァー」したもの。そのひねり具合がとにかく面白い。鼻声っぽいミクの声はリンゴ・スターを意識した?

 

 

(Unedited stuff for VOCAMAGA / November. 2013)