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Dion『Recorded Live at The Bitter End August 1971』

ニューヨークの最北端、通称ブギ・ダウンとも呼ばれるブロンクス区。ニューヨーク・ヤンキースのホーム、ヤンキー・スタジアムがあることでも知られるが、この街は移民の街としても有名である。そんな街で生まれ青春時代を過ごしたイタリア系アメリカ人のディオンは、ドゥー・ワップとR&Bとカントリーを別け隔てなく聴き、そして自らのものとした。彼のいうブロンクス・ブルースというのは、周りに溢れていた音楽をイタリア系アメリカ人としてフラットに聴く態度のようなものを指すのかもしれない。

 

そんなディオンは1957年にドゥー・ワップのグループ、ディオン&ザ・ベルモンツとしてローリー・レコードからデビュー。1958年に「I Wonder Why」が全米22位のヒットとなり、1959年には「Where or When」が全米3位、そして1961年には「浮気なスー」が全米1位に輝くなど、ヒットを次々に飛ばすことになる。

 

1962年にCBSコロムビアに移籍してからも、リーバー&ストーラー作の「Ruby Baby」(ドリフターズのカヴァー)が全米2位、ディオンの自作曲「Donna The Prima Donna」が全米6位とヒットする中で、やがてディオンはA&Rマンのジョン・ハモンドに触発されるようにして、ブルースやフォークへと傾倒していく。ウィリー・ディクソンの「Spoonful」や、ディランの「It's All Over Now Baby Blue」などを取り上げていくようになるのだ。そして、生まれたのが1968年に全米第4位に輝いた、ストリングスも美しいフォーク「Abraham, Martin and John」である。

 

 

 

この頃のディオンは、ほとんど彼のギター一本による弾き語りとでもいってよいような内容の、シンガー・ソングライター的なアルバムをいくつかリリースしている。

ローリーに復帰してリリースした『DION』(1968)、コロムビアでリリースした『Wonder Where I'm Bound』(1969)*1、そしてワーナーに移籍してリリースした『Sit Down Old Friend』(1970)、『Sanctuary』(1971)である。

 

そして、この度、英Aceから、1971年に録音された未発表のライヴ音源が『Recorded Live at The Bitter End August 1971』としてリリースされた。

 

レコーディッド・ライヴ・アット・ザ・ビター・エンド 1971年8月

レコーディッド・ライヴ・アット・ザ・ビター・エンド 1971年8月

 

 

 ディオンがギター一本で弾き語るスタイル はライヴでもそのまま。ギターも歯切れが良く、歌声はいつものディオンらしい甘さとやさぐれ感が絶妙にまざりあったもので実に男らしい。

 

ライヴでは、「Abraham, Martin and John」や「The Wanderer」「Ruby Baby」といった自身のヒット曲も演奏しながら、「Sunshine Lady」や「Sanctuary」といった曲が(当時はまだリリース前であった)アルバム『Sanctuary』から披露されているが、ジェフ・バックリィジョージ・ハリソンのカヴァーでも知られるディランの「Mama, You Been on My Mind」、チャック・ベリーの「Too Much Monkey Business」、ディランの「One Too Many Mornings」、レナード・コーエン「Sisters Of Mercy」、ライトニン・ホプキンス「You Better Watch Yourself」、サニー・ボーイ・ウィリアムソン「Don't Start Me Talking」、そしてビートルズの、というよりはポール・マッカートーニーの「Blackbird」といった曲も採られており、ディオンのブロンクス・ブルース精神、フォークやブルースといったルーツに向き合おうとする意思を選曲からも強く感じられる。

パフォーマンスもただただ素晴らしく、「Too Much Monkey Business」での観客に語りかけながらイントロをダラダラと弾いていく中でいきなり「You know running to and fro」と歌い出す瞬間のヤサグレ感、一転して「Blackbird」での甘い歌唱と、当時のディオンのヴォーカリストとしての充実ぶり、懐の広さが窺えるものとなっている。

 

ディオンという人は、1960年代半ばから、シンガーソングライターの時代を先取るかのような音楽を世に送り出し続けていたわけだが、ルーツ音楽からディランやポールといった当時を象徴するようなソングライターの曲まで取り上げることで音楽の歴史軸もしっかり抑えていた。このしっかりとした眼差し、批評眼のようなものが当時のディオンの魅力でもあるのだが、そこを強く堪能できるという意味でもお薦めの一枚である。

*1:「Abraham, Martin and John」に寄せたようなトム・パクストンのカヴァー「I Can't Help But Wonder Where I'm Bound」やディランのカヴァー「It's All Over Now Baby Blue」が収録されている。2010年にはCherry Red系列のNow Soundsからリマスター再発されており、比較的入手しやすい

 

Wonder Where Im Bound

Wonder Where Im Bound