自己の回復をテーマとする冒険活劇~青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス1』を読んで

※以下の文章では青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス1』の内容に触れています。

 

アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

 

 

 

青崎有吾さんの『アンデッドガール・マーダーファルス1』を読み終えた。

 

異形の怪物たちが属するコミュニティ――本作はそんな奇怪な場で起こった事件の謎を解き明かす本格ミステリだ。

特に出色の出来栄えなのが、1本目の「吸血鬼」。

同作では、吸血鬼一族の住まう屋敷で女吸血鬼が殺害されるという事件が起こる。怪物専門の探偵である輪道鴉夜は屋敷内にいた者たちに容疑者はいると指摘。だが、彼らには皆、事件当時にアリバイがあることが判明する――。
謎そのものももちろん魅力的なのだが、探偵の推理が何より魅力的だ。吸血鬼という特性を世界の原則として、輪道鴉夜は論理を組み立て、推理を披露するのだ。そこがまず見事だ。また、青崎といえば、手がかりの扱いに非常に長けた作家であるが*1が、本作でのアリバイ崩しに至る手がかりも、設定にうまく沿ったもので唸らされる。杭を巡る諸々の考察と検討は、青崎ならではだ。

 

さて、今までの青崎作品では推理が何よりとびきりの輝きを放っていた。推理こそが主役であるともいえた。
だが、『アンデッドガール・マーダーファルス』はキャラクターも物語も、推理と同等に、いやそれ以上に輝いている。
輪道鴉夜ら登場人物たちの設定と、彼女らによる会話が非常にはちゃめちゃであり面白いのである。特にワトソン役を務める真打津軽の飄々とした口調は癖になる。
裏染天馬を主人公とする一連の〈館〉シリーズでは、オタク・ネタの引用に頼りすぎていたきらいもあり、キャラクターの魅力が今ひとつ伝わってこなかったのだが、いわゆるオタク的な“くすぐり”を封印した本作では、逆にオタク心をくすぐるようなキャラクター造形に青崎は成功している。キャラクター当人の描き方というよりは、キャラ同士のテンポの良いやりとりによって、魅力的な造形に成功しているのだ。
『アンデッドガール・マーダーファルス1』は、間違いなく、青崎有吾のターニング・ポイントとなる作品になるだろう。

 

さいごに

奪われた身体を取り戻すために、怪物たちと推理で戦い、そして文字通り力で戦い旅を続ける輪道鴉夜の物語からは、手塚治虫の『どろろ』も思い出さずにはいられない。『どろろ』同様、『アンデッドガール・マーダーファルス』の物語も、自己の回復をテーマとする冒険活劇なのである。最後に現れた“教授”との対決の行方も非常に気になるところだ。
次巻が今から楽しみでならない。

*1:『体育館の殺人』における傘、『水族館の殺人』におけるモップとバケツ、「もう一色選べる丼」における箸など