とある漫画家と京極夏彦の極上の寓話~春日みかげ『神社姫の森』を読んで

京極堂シリーズに別の作家さんが挑むという企画で書かれた、春日みかげさんの『神社姫の森』を読んだ。

 

 

同作は『魍魎の匣』をベースにした作品である。久保竣皇と名乗る作家が武蔵野連続バラバラ事件を小説にして『魍魎の匣』という作品を発表したことから物語は始まる。小説の内容は、事件の関係者でしか知りようのないもの。そして、久保竣皇が次回作として予告した作品のタイトルは『姑獲鳥の夏』であった……というのがあらすじだ。

 
ミステリとしてはもう一捻り欲しいところだが、京極堂シリーズのファンならば楽しめるとは思う。パスティーシュとしては極上の部類に入る。
春日みかげ京極堂シリーズをよく読み込んでいるのもわかる。持ちだされるうんちくに関しても、『魍魎の匣』を書いていた頃の京極夏彦が持ちだしそうなうんちくではある。
織田信奈の野望』にしてもそうだが、春日は実在の人物をキャラクターとして動かす手筋にも長けており、同時に歴史の中でオリジナル・キャラクターを動かすのがかなりうまい。なお、本人は「京極堂VS加藤保憲」というのも考えていたそうだ。権利関係がクリアできなかったため、ボツになったらしい……
 
さて、同作には、名指しはされないが、ある漫画家が登場する。彼はもともと神戸で紙芝居作家をやっていたのだが、昭和30年代に入って紙芝居自体が廃れてしまったため、貸本漫画家に転身、物語の開始時点では調布に住んでいるのだという。彼は戦争漫画などを発表し続けているのだが、いずれは妖怪を大々的に漫画で描いてみたいのだという。そんな彼が妖怪漫画でやっていこうと決意するきっかけが『神社姫の森』では書かれる。そのくだりは架空のものではあるのだが、「こうだったら、美しいな」と思える物語にはなっている。その漫画家さん――つまり水木しげる京極夏彦さんの関係を考えるに、これは一種の神話だといってよい。お薦めします。