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『リメンバー・ミー』はミステリ好きにこそ観てほしい

つい最近出た千街晶之編『21世紀本格ミステリ映像大全』(原書房)は刺激的な本であり、その労作ぶりには頭が下がるばかりなのだが*1、少し残念なところもあった。

 

21世紀本格ミステリ映像大全

21世紀本格ミステリ映像大全

 

 

何が残念なのか。それは、ディズニーをはじめとして海外のアニメ作品がまったく取り上げられていないことだ。「アニメ」の項目はあるのだが、そこにあったのは深夜アニメを中心とした日本のアニメのみ。偏りがあるというか*2。もっと広い視野で捉えてほしかった。

 

ディズニー作品にあるミステリ的な仕掛け

さて、ディズニーにはミステリの語り口を取り入れた作品が多々ある。古くは『ロジャー・ラビット』。双葉十三郎氏は同作をハードボイルドものとして評価し、瀬戸川猛資氏は同作に仕掛けられた“一人二役”トリックを絶賛していた*3

 

 

近年のディズニー/ピクサー作品では、その傾向はますます強まっており、ミステリ的なツイストが効いている作品が多く作られている。その辺については、『奇想天外 21世紀版』の〈ミステリ映画祭〉でも書いたが、〈意外な真犯人〉や〈ミスディレクション〉といった意匠が多用されているのだ。

 

奇想天外 21世紀版 アンソロジー

奇想天外 21世紀版 アンソロジー

 

 

わかりやすい例だと、『アナと雪の女王』。同作におけるヴィラン(悪役)に驚いた人は少なくないだろう。『ベイマックス』のミスディレクションにまんまとハマってしまった人も少なくないだろう。あなたも、復讐に燃える仮面の男の正体を見誤ったはずだ。

また、ストーリーそのものはミステリではないが、昨年公開された『カーズ・クロスロード』も〈意外な真犯人〉ものの変奏といえるだろう。
……といった具合に、ディズニーには、ミステリ好きならば絶対に楽しめる作品が多々ある。

 

 

 

 

「ディズニー作品は筋立てが単純だ」と言われがちだ。「日本のアニメは複雑なテーマを描くが、ディズニーはそうではない」みたいな文脈で主に言われるようだ。

確かに、ディズニー/ピクサー作品は、テーマがわかりやすいかもしれない。しかし、テーマは単純かもしれないが、プロットは複雑なのだ。ミスリードもあるし、伏線もきちんと張られている。キャラクターの配置が最初と最後とでがらっと変わるなんてこともざらにある。

ウェルメイドな話で、ドタバタもあって、意外性のある話――ミステリ好きならば、観たくなるに違いないと思うが、どうだろう。

 

リメンバー・ミー』にあるミステリ的な仕掛け

繰り返しになるが、ミステリ好きならば、ディズニー作品を観ておいて損はないと思う。それは、現在上映中の『リメンバー・ミー』にしてもそう。本作にもミステリ的な趣向が取り入れられているのだ。

 

リメンバー・ミー オリジナル・サウンドトラック

リメンバー・ミー オリジナル・サウンドトラック

 

 

リメンバー・ミー』のあらすじはこうだ。

主人公は、ミュージシャンを夢見る少年・ミゲル。しかし、彼の家には、厳格な掟があり、ギターを弾くことも音楽を聴くことも禁じられていた。

ある日のこと、ミゲルは一枚の写真から、自分の先祖が伝説のミュージシャンではないかと推理する。家族と衝突し家を飛び出したミゲルは、伝説のミュージシャンの墓に侵入し、彼が愛用していたギターを手にとる。ミゲルがギターをかき鳴らした瞬間、彼の周囲の光景が一変する。なんと、ミゲルは呪いによって、死者の国に迷い込んでしまったのだった! ミゲルは元の世界に戻るため、死者の国のどこかにいる伝説のミュージシャンの元へと向かうのであった――。

 


映画『リメンバー・ミー』日本版予告編

 

作品のテーマが〈家族との絆〉や〈夢との向き合い〉であるため、〈ディズニー=単純な物語〉という固定観念に囚われているミステリ好きは興味を持てないかもしれないが、待ってほしい。本作は紛れもなく、ミステリなのだから。

リメンバー・ミー』の主筋は、死者の国に迷い込んでしまった少年が、ご先祖様たちが抱えている秘密を探るというものだ。

そういった物語構成もミステリ的ではあるのだが、本作には、死者の国で死者のフリをする羽目になったことによるサスペンス的な興味もあるし、実は隠れたフーダニットもある。特に、この隠れたフーダニットが絶妙で、発覚するタイミングもドンピシャリ。と同時に、巧妙に隠されていた事件も浮かび上がるなど、そこからの連打が心地よい。
そこまではっきりと書かれいるわけではないが、死者だからこその思考が物語に影響するなど、山口雅也の『生ける屍の死』にも通じるものがある……というのは言い過ぎだろうか。

 

さいごに

リメンバー・ミー』には多種多様な華やかさがある。

たとえば、メキシコ風な死者の国の描かれ方。その色彩感覚に魅了されない者はいないだろう。たとえば、劇中で流れる音楽。メキシコ音楽の陽気さにうっとりとさせられることは間違いない。

 吹き替えを担当する声優の演技もそう。藤木直人の名演には心打たれるし、多田野陽平さんの演技にはほっこりさせられる(この人の演じる、少しヌケたおじさん役は味がある)。

そして、物語も。ドタバタがあって、ほろりとしたり、ほっこりしたり。ミステリとしても面白くて。とにかく、お薦めだ。

*1:秋好亮平さんが一人で担当した「テレビバラエティ」の項目だけでも買い。バラエティ番組をミステリとして読み解くという試みがとにかく面白いのだ

*2:たとえば、原作にあった手がかりの描写や推理パートを端折るなど、ミステリ的要素を意識的に省いていたアニメ版「ダンガンロンパ」が取り上げられているのは「偏り」と言えるだろう

*3:『夢想の研究―活字と映像の想像力』(早川書房)に収録されている「からくり兎」は「ロジャー・ラビット」について論じたものだ