「ファー・アウェイ・アイズ」はまだ聴こえているか?

それはちょっと~“小説書いて”ってそれはちょっと

小説を書くことになってしまった。退路を断たれてしまった。とにかく、僕は小説を書くことになってしまった。10年近く前にローカルの純文学系の新人賞をもらったことがあるが、それぐらいしか実績がないのに、書くことになってしまった。“決定だね”ってイヤだよ、という感じである。

 

強い気持ち・強い愛

強い気持ち・強い愛

 

 

窮地に立たされたにもかかわらず、僕はまったくまだ動かないでいる。だから、さらに退路を断つことにした。つまり、書くということを公にしてしまおうと思ったのである。

 

昔書いたパスティーシュ小説について

困ったことに、僕はミステリを書くことになっている。過去にミステリを書いたのは1度だけ。はたしてうまくやれるのだろうか。プロットは通っているのだから*1、あれこれ悩む前に早く書くべきだというのはわかっている。だが、わかってほしい。僕は編集者としては確かに勤勉だが、ライターとしてはそこまで勤勉ではないのだ。

 

以前1度だけ、20年近く前にミステリを書いたことがある。名探偵が活躍するやつだ。
18年前の1月に僕が書いたのは、山口雅也氏の〈キッド・ピストルズ〉シリーズのパスティーシュだった。

 

当時、僕は山口氏の〈キッド・ピストルズ〉シリーズに不満があった。

それは、パンク探偵という割には、キッドがまったくパンクでないことだ。ファッションは確かにパンクスだが、パンクスという設定があまり推理に活かされておらず、普通の探偵小説になっていることが、僕には不満だったのだ*2。キッドのパンク精神、というか彼のスタイルを小説の中で読みたいと、僕は思っていた。

 

 

――そこで、僕はキッドの小説を書くことにした。僕がすぐに思いついたのは、キッドのライヴァル役を登場させる、ということだった。キッドのスタイルを強調するために、対照的なキャラクターを登場させて、2人を作中で衝突させようと思ったのだ。ポール・ウェラーをモデルとした人物が現れ、事件そっちのけでキッドとスタイルについて問答を繰り広げる――すなわち、Style Councilする。そんなパスティーシュを僕は書いたのである。

もちろん、〈キッド〉だから、マザーグースも引用した。引用したのは「The House That Jack Built」だ。お気づきの方もいるだろうが、「ジャックの建てた家」を引用しようと思ったのは、ポール・ウェラーをモデルとしたキャラクターを創案したからである。彼が運営していたレスポンド・レーベルから1983年に出たシングルに、トレイシーの「The House That Jack Built」という曲があるのだ。

 


TRACIE THE HOUSE THAT JACK BUILT

 

 

レスポンド 12インチ・シングル・コレクション

レスポンド 12インチ・シングル・コレクション

 

 

その時に書いた原稿はもう無くしてしまった。キッドが“ポール・ウェラー”に瓶で殴られるエピソードをちゃんと盛り込んだ記憶はある。だが、話の筋は完全に忘れてしまった。

実はこの後で、もう1度、キッドのパスティーシュを書くみたいな話が浮上したことがある。その時はちゃんとした探偵小説を書こうと思って、探偵小説しちゃってる話を考えた。私も改心したのである。結局、その企画自体が消滅したのだが。ちなみに引用したマザーグースは「ルーシー・ロケットがまぐちなくした」である。

それはさておき。今回はその時に作成したプロットを晒しておく。私がいかに期待できないかということを知ってもらうためだ。

 

「赤い紐は我が影法師」

「Lucy Locket lost her pocket」
Lucy Locket lost her pocket,
Kitty Fisher found it.
Not a penny was there in it,
Only ribbon round it.

 

[訳]

「ルーシー・ロケットがまぐちなくした」

ルーシー・ロケット がま口なくして
ティー・フィッシャー 見つけてあげた
がま口の中身はすっからかん
周りに紐が結んであるだけ

 

ある日、ロンドン警視庁の一番陽当りが悪い一室に事件が持ち込まれる。

あるハイスクールで最近、妙な盗難事件が頻出しているらしい。

たとえば、相談をNUTSに持ちかけてきたルーシー・ロケットの場合。彼女は財布を盗まれたのだという。財布自体は見つかったが、中身は入っていなかったそうだ。

ルーシーの財布を見つけたキティー・フィッシャーの場合。彼女は最近ペンケースを盗まれたのだという。ペンケースは見つかったが、中身の文房具は戻ってこなかったそうだ。

靴袋を盗まれた少年は靴だけ戻ってこなかったというし、ギターケースを盗まれた少女はギターだけが戻ってこなかったという。

それだけなら、特にNUTS向きな事件というわけでもないのだが、彼らにはある共通点があった。――財布もペンケースも靴袋もギターケースも、見つかったときに、赤い紐が周りに結んであったのだ。そう、NUTS向きな事件だったのである。

学校側は学内で独自調査をすると発表したが、以前から生徒たちの間に赤い紐にまつわる怪談がまことしやかに囁かれていたこともあり、不安になったルーシー・ロケットとキティー・フィッシャーは今回こっそり警察に相談に来たのだという。

部屋の片隅で、スマホでひとり自撮りを繰り返していたピンク・ベラドンナが、自撮りに飽きたのか、立ち上がって呟く。「ルーシー・ロケットの歌みたいだね。がま口の中身はすっからかん。周りに紐が結んであるだけ」

 

ハイスクールは監視カメラが校門にあるぐらいで、あとは自由な校風、放任主義を標榜しているのだという。パンクスの2人が生徒として潜入してもばれないだろうということになり、キッドとピンク・ベラドンナはハイスクールに直行する。

潜入2日目にして、盗難事件が起きる。サッカー部所属のジェフ・マカリスターのプロテイン缶が盗まれたのだ。缶は校舎裏で見つかったが、やはり赤い紐が結ばれている。一体、これは何なのか。ジェフのロッカーが急いで検分されるが、缶とスマホしかなく、他に手がかりはない。

すると、ピンク・ベラドンナが現場の様子をツイッターに投稿しようとする。キッドはそれをとがめる。

現場に居合わせた生徒の一人がピンクの使っているスマホに興味を持つ。iPhoneAndroid端末ではなく、物理型のQWERTYキーが付属されているBlackBerryという、マニアックなスマホを使っているからだ。「ピンクさんはiPhoneなんか持たないんですからね」。キッドは聞く。「お前、その爪でBlackBerryの小さいボタンをよく押せるな。あ、だからメッセンジャーは誤字だらけなのか」。ピンクは怒ってどこかへ去る。

 

やがて、騒ぎを聞きつけて教師がやってくる。教師は騒がないよう生徒たちに注意し、ついでにルーシー・ロケットやキティー・フィッシャーのここ数日の校外での買い食いやバスの中での奇行(どうやら彼女らはyoutuberらしく、おかしな行動をしては動画をアップしているらしい)を咎めるのだった。ルーシーは言う。「最近、校外での馬鹿騒ぎがすぐバレちゃうんだよなあ。住みづらくなったね、この街も」すると、靴袋の少年とギターケースの少女が顔を見合わせて、こう言うのだった。「そういえば、僕たちも最近、筒抜けなんだよね。廊下でスケボーで走ったのもバレちまったし、消化器を倒してしまって煙を吹き出させたのもバレちゃったんだ」

 

3日目。今度はピンク・ベラドンナのレコード袋が盗まれる。袋はすぐに発見されるが、中身のレコード*3はやはりない。そして、当然のように、袋には赤い紐が結んであるのだった……。ピンクはあらん限りの罵詈雑言、特に赤い紐についての罵詈雑言をツイッターに画像付きで投稿する。

 

がっかりしたピンクだが、気を取り直したのか、むしゃくしゃしているのか、放課後にチアリーディング姿で教室に現れる。教室でルーシーやキティーと一緒に事情聴取をしていたキッドは噴き出す。「一体、どうしちまったんだ」。ピンクは答える。「いやぁ、チアリーディング部の子たちと仲良くなってさあ。借りたのさ。それで、思いついちゃったんだよねえ。あのPVのマネができるなって。で、それをyoutubeに上げるってわけ。動画がバズったら、ピンクさんは警察なんてやめますからね」

そして、ピンクたちはテイラー・スゥイフト「Shake It Off」のパロディ動画を撮って、youtubeに投稿し、さらにツイッターにも動画URLを貼るのだった。

キッドは言う。「お前も、今まで盗みにあった奴らみたいに、赤い紐の呪いで教師の千里眼ですべてバレちゃうぜ。そして、明日叱られちまうんだ」

 


Taylor Swift - Shake It Off

 

翌日、ピンクは二日酔いでまだ寝ているのか、署に出勤していない。キッドは一人、ハイスクールに向かうのだった。ピンクがあれだけの大騒ぎをしたのだから、教師に小言のひとつでも言われるだろうと思っていたキッドだが、教師は何も言わない。チアリーディング部のコたちも教師に叱られていないのだという。千里眼問題と赤い紐問題はやはり関係ないのか……。

 

昼になってもピンクはハイスクールに姿を現さないので、キッドはピンクのツイッターを見る。ツイート内容を見るにどうやら地下鉄を乗り間違えているようだ。どこにいるんだろうと思い、位置情報を見る。ローマと表示される。不思議に思ったキッドはチェシャのツイッターを見る。前日の動画URLを投稿したツイートは位置情報がナポリ、レコードが盗まれたというツイートは位置情報がフィレンツェになっている。

キッドはチェシャに聞く。すると、ピンクは答えるのだった。「いやあ、BlackBerryってGPS機能が変でさあ。ロンドンでツイートしているのに、位置情報がイタリアになっちゃうんだよ。私のフォロワーに日本人の人もいるんだけど、その人もBlackBerryユーザーでね、位置情報がなぜか日本ではなくスカンジナビア半島になっちゃうんだって」

キッドはそこで真相に気づく。

 

犯人は学校の教師たち。

自由な校風を謳ってはいたが、教師たちは生徒たちをしっかり管理したかった。そこで、彼らは一計を案じた。生徒たちのツイッターを監視してしまえばいいと。

今の子は何でもツイートしてしまう。むしゃくしゃしたこと。バカなことをやったこと。今食べているもの。だから、ツイッターを監視すればいいと考えたのだ。

でも、生徒たちはツイッターを本名ではなく、偽名でやっている。アニメの画像や芸能人の写真をアイコンにして。そのままでは生徒たちのツイッター・アカウントを特定して監視できない。そこで、教師たちは生徒のツイッターアカウントを特定するためにある策を練った。たとえば、最近、髪を染めるなど乱れ始めているルーシー・ロケットのアカウントを特定したかったら、まず彼女の財布を盗む。中身を抜き出して、財布だけ戻す。赤い紐をつけて。ルーシーはやがてツイッターに呟く。「私の財布が戻ってきた。でも、中身はない。忌々しい赤い紐め!」

教師たちは「財布 赤い紐」と検索窓に入れて検索すればそれでいい。ルーシーがいくら偽名でツイッターをやっていようと、特定できるのだ。

ジェフのロッカーにプロテイン缶とスマホがあって、スマホではなくプロテイン缶を盗んだのは、スマホを盗んで(スマホケースだけ戻して)しまうと、ジェフがツイートできなくなるから。プロテイン缶を盗むしかなかったのだ。

では、なぜピンクのアカウントは特定されなかったのか。いや、正確にいえば、アカウントは特定されたのだが、ピンクだと思われなかったのだ。理由は、位置情報にイタリアとあったから。「イタリアの人だから、これはピンクではない」と考えたのである(しかも、ピンクはテイラーのパロディをするにあたって、メイクをテイラー風に変えていたのだから、動画を見ても気づかないわけである)。

キッドは校長室に向かおうとする。そこにピンクが現れる。頭にリボンをつけて、薄いブルーのワンピースを着ているピンクが。

「昨日の動画がバズっちゃってさあ。どうやら、私にとっては赤い紐はバズるおまじないみたい。だから、今日は……」

「やれやれ。今日はメーガン・トレイナー“All About Bass”でも撮るつもりか?」 

 

...And they lived happily ever after ?

 


Meghan Trainor - All About That Bass

 

さいごに

とにかく、僕は90年代の渋谷系についての小説を書くことになってしまったのだった。

 

 

*1:現役のミステリ作家2名ほどに見せて、合格点はもらった

*2:今なら山口氏の狙いはわかる。彼は権威を笑い飛ばす存在として〈パンク探偵〉という設定が必要だったのだろう。パンク探偵が活躍する探偵小説なのだから、パンクの精神性を描く必要はなかったのであろう

*3:ビートルズの「ツイスト&シャウト」EP盤。以前、ピンク・ベラドンナ、もといチェシャが屋根裏部屋で見つけたジェイスン・バーリイコーンの宝物からくすねてきたもの。光文社文庫版『生ける屍の死 下巻』180ページを参照